甲状腺とは

三倉医院のホームページをご覧いただきありがとうございます。

このページでは健康に関するコラムを書いていこうと思っております。
以前は院長が書いておりましたが、この度長い休止期間(?)を経て復活させて頂きました。コラムの具体的な内容ですが、皆さんが疑問に思っていることや、私が日常診療の中で皆さんにお伝えしたいこと、学会や医学雑誌などで得た内容を分かりやすくお伝えできればと思っております。どうぞお付き合いください。

【甲状腺って何?】

甲状腺

コラム復活第1回目は、甲状腺についてお話ししようと思います。そもそも甲状腺って何?という方もいらっしゃるかもしれません。甲状腺は首、男性でいう喉仏あたりにある蝶のような形をしています。大きさは10~15グラムととても小さく、普段あまり注目されることの少ない(?)臓器です(ちなみに心臓は200~300グラム、人体最大の臓器と言われる肝臓は1~1.5キロあります)。

ちなみに、健康診断で首を診察されたご経験がある方もいるかもしれません。あれは主に甲状腺の腫れを確認しています。といっても甲状腺はとても小さい臓器ですので、通常は体表から触れることはありません。ですので、健康診断で「甲状腺が腫れています」と言われたら、一度病院での検査をオススメします。

話が逸れましたが、甲状腺は小さいながらもとても大切な臓器の一つです。甲状腺からは「甲状腺ホルモン」が作られます。甲状腺ホルモンは体の代謝をアップさせる働きがあり、身体の様々な臓器に作用して効果を発揮します。

ですので、甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、様々な症状が出現します。以下に示すような症状が出現することがありますので、これらの症状に該当する方は一度甲状腺を調べてみるといいかもしれません。

 甲状腺ホルモン高値甲状腺ホルモン低値
心臓動悸、脈が速くなる(頻脈)不整脈(心房細動など)脈が遅くなる(徐脈)
発汗増える、手足が震える減る
エネルギー消費増えるので異常に食欲が増えたり、食べても体重が減ってしまうことがあります。下がるので体重が増えたり、浮腫が出現することがあります。
精神面元気で活動的となることがあります。気持ちが沈み、うつっぽくなることがあります。
消化管下痢便秘
睡眠どちらも不眠となりやすい傾向があります。

他の病気にも当てはまることですが、甲状腺の病気は疑わないと見つけられません。例えば便秘が長く続いていた原因が甲状腺機能低下症だった、不眠の原因がバセドウ病だったなんていうこともあります。そのため最初は甲状腺の病気と気付かず、他科を受診してしまうこともあります。勿論患者さんが悪いわけではありません。

他科で甲状腺の病気の可能性を疑われて、当院に受診されて甲状腺疾患の診断に至った患者さんもいらっしゃいます。以下は私がこれまで経験した患者さんのほんの一例です。

  • 実はバセドウ病だった例
    • 目が腫れて眼科を受診した
    • 月経不順・不妊の相談で産婦人科を受診した
    • 精神的に落ち着かないので心療内科を受診した
    • 健診で不整脈を指摘されて循環器を受診した  等々
  • 実は甲状腺機能低下症だった例
    • 認知機能の低下を疑われて、認知症外来を受診した
    • 脱毛がひどく皮膚科を受診した
    • 便秘の相談のために近くの内科を受診した
    • うつっぽいので心療内科を受診した  等々

【甲状腺の病気の種類】

ここからは甲状腺の病気にはどんなものがあるのかを簡単にご説明します。
甲状腺の病気は、(1)ホルモンの病気、(2)しこり・結節に大きく分けられます。

(1)ホルモンの病気ですが、代表的なものがバセドウ病と橋本病(慢性甲状腺炎)です。甲状腺ホルモンの病気は大半がこの2つの病気で、いずれも女性の方に発症することが多いです。ちなみに、バセドウ病=甲状腺ホルモンが高くなる病気ですが、橋本病=甲状腺機能低下症ではありません。橋本病は慢性甲状腺炎として定義される病気であり、必ずしも甲状腺機能は低下しません。甲状腺機能が正常な橋本病患者さんもいらっしゃいます。その他のホルモンの病気としては無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎があります。

  •  
    バセドウ病
    好発
    20~50歳代の女性に多い
    原因
    自己免疫、ストレス、喫煙、出産など
    甲状腺機能
    高値(FT3・FT4高値、TSH低値)
    抗体
    TSHレセプター抗体陽性
    治療
    薬(抗甲状腺薬、ヨウ化カリウム)、手術、放射線治療
    ヨウ素制限
    不要
  •  
    橋本病(慢性甲状腺炎)
    好発
    20~50歳代の女性に多い
    原因
    自己免疫、ヨウ素過剰摂取など
    甲状腺機能
    正常~低値(FT3・FT4正常~低値、TSH正常~高値)
    抗体
    抗サイログロブリン抗体陽性甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性
    治療
    症例により薬(チラージンS)が必要となることがあります。
    ヨウ素制限
    症例によっては必要となることがあります。
  •  
    無痛性甲状腺炎
    好発
    原因
    橋本病の患者さん、バセドウ病寛解中の患者さん、出産後に発症することもあります。基本は無症状です。
    甲状腺機能
    高値から低値となり、2-3ヶ月で正常に戻る
    抗体
    陰性
    治療
    基本的には不要
    ヨウ素制限
    不要
  •  
    亜急性甲状腺炎
    好発
    40代以降の女性に多い
    原因
    風邪の後に発症することが多いです。発熱、痛みを伴うこともあります。
    甲状腺機能
    高値
    抗体
    陰性炎症反応(白血球、CRP)が上昇する
    治療
    ステロイド、鎮痛剤、安静
    ヨウ素制限
    不要
 
  • バセドウ病
  • 橋本病(慢性甲状腺炎)
  • 無痛性甲状腺炎
  • 亜急性甲状腺炎
発症しやすい年齢
  • 20~50歳代の女性に多い
  • 40代以降の女性に多い
原因
  • 自己免疫、ストレス、喫煙、出産など
  • 自己免疫、ヨウ素過剰摂取など
  • 橋本病の患者さん、バセドウ病寛解中の患者さん、出産後に発症することもあります。基本は無症状です。
  • 風邪の後に発症することが多いです。発熱、痛みを伴うこともあります。
甲状腺機能
  • 高値(FT3・FT4高値、TSH低値)
  • 正常~低値(FT3・FT4正常~低値、TSH正常~高値)
  • 高値から低値となり、2-3ヶ月で正常に戻る
  • 高値
抗体
  • TSHレセプター抗体陽性
  • 抗サイログロブリン抗体陽性甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性
  • 陰性
  • 陰性炎症反応(白血球、CRP)が上昇する
治療
  • 薬(抗甲状腺薬、ヨウ化カリウム)、手術、放射線治療
  • 症例により薬(チラージンS)が必要となることがあります。
  • 基本的には不要
  • ステロイド、鎮痛剤、安静
ヨウ素制限
  • 不要
  • 症例によっては必要となることがあります。
  • 不要
  • 不要

(2)しこり・結節については表のとおり良性、悪性に分類されます。甲状腺のしこりを指摘されるきっかけとしては、健康診断の診察で首の腫れを指摘された、CTやMRI検査で偶然甲状腺に腫瘍を指摘された等があります。しこりを指摘された場合は、一度は超音波検査にて評価することをお勧めします。なぜなら超音波検査は甲状腺のしこりの評価において最も簡単、それでいて正確で、かつ患者さんへの負担が少ない検査だからです。当院では積極的に甲状腺の超音波検査を行い、しこりの評価・診断を行っております。

ただし良性・悪性の判断に迷う場合は細胞診検査(超音波で腫瘍を確認しながら、細い針を首に刺して細胞を採取し、病理診断を行うための検査)を推奨しております。細胞診検査が必要な場合は、専門病院にご紹介させていただきます。

種類
主な特徴
良性結節
腺腫様甲状腺腫(正常な細胞が増殖(過形成)する)、甲状腺嚢胞(内部に液体が溜まる)が多いです。基本的には経過観察で問題ありません。ですが、大きい場合や悪性との区別が難しい場合は、手術で摘出することもあります。嚢胞は針で水を抜くこともあります。
乳頭がん
甲状腺がんの中で最も多いタイプです(約 90 %)。ゆっくりと進行し、若い女性にもみられることがあります。リンパ節転移を起こすことがあります。治療は手術ですが、がんのサイズや転移の有無によっては経過観察をすることもあります。
濾胞ロホウがん
甲状腺がんの中で乳頭がんに次いで多いタイプです(約 5 %)。女性に多いです。この腫瘍の難しい点として、良性腫瘍(濾胞腺腫)との鑑別が難しいことです。最終な診断は手術によって腫瘍を摘出し、病理診断によって行われます。
髄様がん
甲状腺がんの中ではまれなタイプです(約 1-2 %)。遺伝性疾患を背景として発症することがあります。診断された場合は遺伝子検査を行ったり、他の病期を合併していないか調べる必要があります。
未分化がん
甲状腺がんの中ではまれなタイプです(約 1 %)。高齢な方に発症することが多く、極めて進行が速いがんです。予後は極めて厳しく、1年後の生存率は 20 %程度と言われています。甲状腺のしこりが急に大きくなるようなことがあれば、注意が必要です。

いかがでしたでしょうか。今日は甲状腺についてお話しさせていただきました。
甲状腺は、その存在を知らないと病気に気づけない、小さいながらも非常に奥の深い臓器です。甲状腺について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

【まとめ】

  • 甲状腺は首にある蝶の形をした小さい臓器。
  • 甲状腺からはホルモンが分泌され、身体の代謝をアップさせる作用がある。
  • 甲状腺の病気には(1)ホルモンの病気(バセドウ病、橋本病)、(2)しこり・結節(両性結節、甲状腺がん)がある。
  • 首が腫れているかも?と思ったら、一度検査を受けてください。