糖尿病

このページでは糖尿病について、以下の目次に沿って説明しています。

【糖尿病とは】

  • 糖尿病は、インスリンが十分に働かないために、血液中を流れるブドウ糖という糖(血糖)が増えてしまう病気です。インスリンは膵臓β(ベータ)細胞から出るホルモンであり、血糖を一定の範囲におさめる働きを担っています。1)
  • 厚生労働省の調査によると、2016年時点で糖尿病が強く疑われる人は1000万人、糖尿病の可能性を否定できない人は1000万人とされており、合計2000万人が糖尿病もしくはその予備軍といわれています。2022年時点でその数はさらに増加すると予測されています。2)

【分類と原因】

糖尿病は大きく4つに分類されます。

1型糖尿病

人口1万人当たりの有病者数は10人(0.1%)と非常に稀なタイプで、膵臓のベータ細胞(血糖を下げる「インスリン」というホルモンを分泌する細胞です)が何らかの原因で破壊されることで発症します。インスリンが体で作られなくなるため、生涯インスリン治療が必要となります。発症する原因としては、遺伝、感染症、人種差、抗がん剤、(非常に稀ですが)ワクチン等が挙げられますが、生活習慣が原因で発症する病気ではありません。

1型糖尿病は以下の3つに分類されます。
  • 劇症1型糖尿病;約7割で先行感染(風邪)があり、その後1週間程度で1型糖尿病を発症する。
  • 急性発症1型糖尿病;最も多いタイプ。週から月の単位で1型糖尿病を発症する。
  • 緩徐進行型1型糖尿病;初期は2型糖尿病と診断されることもあり、年単位で1型糖尿病に進行する。

特に劇症、急性発症1型糖尿病は喉の渇き、尿の回数が多い、体重が急に減った、体がだるい等の症状が急に出現することがあります。これらの症状がみられた場合は、早急に病院へ受診してください。

2型糖尿病

全タイプの中で最も多い糖尿病タイプです(約90%)。生活習慣病の一つであり、肥満や運動不足等を背景として発症します。なぜ肥満や運動不足により糖尿病を発症してしまうかというと、内臓脂肪や脂肪肝、筋肉量不足によってインスリンが効きづらい体となり、結果として血糖が高くなってしまうからです(これをインスリン抵抗性と言います)。また、一部の患者さんではインスリンの分泌が低下してしまうことが原因で血糖値が高くなり、2型糖尿病を発症することがあります。

多くの2型糖尿病患者さんでは糖尿病を発症する前から血糖が月~年単位で徐々に高値となることが多く、気付かない内に病気が進行していることもあります。多くの患者さんは成人ですが、近年は子供でも2型糖尿病の患者さんが多くなっています。

妊娠糖尿病

妊娠中におこなわれる検査(75g経口ブドウ糖負荷試験)で高血糖を指摘された場合に診断されます。妊娠中の高血糖のため「妊娠糖尿病」といわれますが、正確には糖尿病ではありません。*

妊娠中に血糖が高い状態が続くと、赤ちゃんの発育、流産や早産、羊水過多等を認めることがあり、インスリン治療が必要となることがあります(全例ではありません)。**多くの方は出産後には血糖値が正常となり、インスリン治療は不要となります。

*妊娠中に糖尿病の診断基準を満たした場合は、「妊娠中の明らかな糖尿病」といわれます。また、すでに糖尿病と診断された方が御妊娠された場合は、「糖尿病合併妊娠」といわれます。
**妊娠中は、糖尿病治療薬は使用できません。

その他の糖尿病

上記に当てはまらないタイプの糖尿病。下記のように、様々な要因が挙げられます。

  • 薬剤性(ステロイド、抗癌剤、抗精神病薬等)
  • 悪性腫瘍(膵臓、肝臓がん等)
  • 膵臓・肝臓疾患(膵炎、肝炎等)
  • 遺伝性疾患(ミトコンドリア糖尿病等)

実際はいずれか1つの要因だけでなく、複数の要因をお持ちの患者さんを経験することが多いです。(例. 2型糖尿病の患者さんが癌治療で抗癌剤を使用している、肝炎の患者さんがステロイドを使用している等)

当院ではいずれのタイプの糖尿病患者さんについて診療可能です。

【症状と診断】

一般的に、糖尿病の患者さんでは無症状であることが多いです。また糖尿病診断のきっかけも、健康診断等でたまたま尿検査や採血を受けて指摘されることが圧倒的に多いです。血糖がとても高い場合は、トイレが近くなる(頻尿)、のどが渇く、体重が減る、体がだるい、吐き気や嘔吐等の症状が出現することがあります。これらの症状が長い期間続くと、手足の感覚が鈍る、視力の低下、むくみ等合併症に伴う症状を発症することがあります(後述)。

診断について

糖尿病の診断

糖尿病型

血糖値→
空腹時の血糖値≧126mg/dl
75g経口ブドウ糖負荷試験2時間の血糖値≧200mg/dl
任意の時間の血糖値≧200mg/dl
HbA1c→
HbA1c(JDS値)≧6.1%
HbA1c(NGSP)≧6.5%(糖尿病55(7),2012を一部改変)

(糖尿病情報センターより抜粋)

*空腹時血糖とは8時間以上絶食した後に測定する血糖値です。糖尿病の診断は血糖値とHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)で行います。大まかに、血糖値=今の血糖の状態を見る、HbA1c=過去1~2か月の血糖値の平均点と考えてください。

普段の診療では、血糖値とHbA1cを同時に測定し、二項目がいずれも糖尿病型を満たして糖尿病と診断されるケースが圧倒的に多いです。

【合併症】

糖尿病の最大の敵は合併症です。

糖尿病は、絶対に放置してはいけません。放置してしまうと合併症を発症または悪化してしまう可能性があります!

糖尿病合併症については大きく分けると以下のようになります。

  1. 急性期合併症;糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性高浸透圧症候群、低血糖症
  2. 慢性期合併症;細い血管の障害(細小血管障害)・・糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症太い血管の障害(大血管障害)・・脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化など
  3. その他;感染症(かぜ、肺炎等)、歯周病、認知症、がん等

1.急性期合併症

糖尿病性ケトアシドーシス(Diabetic Ketoacidosis; DKA)

何らかの原因でインスリンが不足すると、体は血糖をうまく処理できなくなります。その代わりに脂肪が分解され、ケトン体という物質が作られます。ケトン体は体を酸性にしてしまいます。この状態アシドーシスといい、体の細胞機能が低下してしまいます。また血糖が異常に高くなりますので、喉の渇き、トイレが極端に近くなる、体重が減る、だるさなどをきたします。さらに悪化すると呼吸困難、吐き気・嘔吐、意識障害等を起こすことがあり、治療が遅れると亡くなってしまう方もいます。

DKAを発症する原因として、(1)インスリン治療が必要な患者さんのインスリンのうち忘れ、(2)感染症や外傷、(3)(主に2型糖尿病患者さんで)清涼飲料水を大量に飲んだ等があげられます。3)

糖尿病高血糖高浸透圧性症候群(Hyperglycemic Hyperosmolar State; HHS)

端的に説明すると、極端な高血糖と脱水により、血液が極端に濃縮する状態です。DKAはインスリン治療を必要とする患者さん(主に1型糖尿病患者さん)で多いのに対して、HHSは高齢の2型糖尿病患者さんに多く見られます。

原因として感染症、ステロイド薬等の薬剤性、高カロリー輸液等が挙げられます。こちらも意識障害、吐気・嘔吐等をきたすことがあり、生命に関わる危険な状態です。3)

低血糖症

低血糖症は糖尿病治療で投薬をされている全ての患者さんに起こる可能性があります。その中でも特に低血糖リスクが高いのがインスリン使用中、高齢の方、腎臓が悪い方、スルホニルウレア薬使用中(例. グリメピリド、アマリール錠®)に該当する患者さんです(その他、アルコールを多量に摂取している、肝臓が悪い、胃切除後等)。

低血糖になると汗をかく、動悸がする、頭痛、目の前が暗くなる、ふらつき、空腹感等が出現します(警告症状といいます)が、悪化すると意識障害を起こすことがあります。

一般的に低血糖は60~70mg/dL以下で症状が出現することが多いですが、1型糖尿病の患者さんなどで頻繁に低血糖を起こしている方は、身体が低血糖に慣れている為、血糖値が30~40mg/dLまで低下しないと症状が出現しない、もしくは警告症状なしでいきなり意識を失うことがあります(無自覚低血糖)。

→低血糖かな?と思った時は、ためらうことなくすぐに甘いもの(ブドウ糖、ジュース類など甘いものなら何でもOK)をとってください。

2. 慢性期合併症

慢性期合併症は長い年月血糖値が高い状態が続くことで徐々に進行し、自覚症状が出現することがあります。新規治療薬の開発や継続的な治療の取り組みのおかげで、世界的にも糖尿病の合併症は減少傾向にありますが、発症しないようにすることが大切です。4)

1.細い血管の障害(細小血管障害)5)

糖尿病性神経障害

全身に巡っている神経は細い血管によって栄養されています。血糖が高い状態が続くとそれらの血管が痛み、結果として神経に栄養が供給されず機能を失っていきます。神経が正常に機能しないと足先の痺れ、攣り(こむら返り)、痛み、感覚低下、皮膚の潰瘍(壊疽、えそ)等の症状が出現します。これらの症状は左右対称に、かつ手よりも先に足に症状が出現することが多いです。また自律神経(自分の意思とは関係なく体をコントロールしてくれている神経)が障害されると、ふらつき、胃のむかつき、勃起・頻尿を起こすこともあります。これらの神経障害は、初期であれば血糖管理を改善させることで症状が改善することもありますが、進行すると改善することはなく、特に足の潰瘍は壊疽・切断まで進行することがあります。そのため、神経障害がある場合ではフットケアがとても重要となります(後述)

糖尿病性網膜症

網膜はカメラのフィルムに当たる部分で、眼が光を感じる場所です。糖尿病では網膜の血管が痛むことで、視力低下をきたすことがあります。日本の視覚身体障がい原因の第3位とされています(1位が緑内障、2位が網膜色素変性症)。2)その他に白内障や緑内障とも関連があると言われています。当院では、患者さんに定期的な眼科への通院をお願いしております。

糖尿病性腎症

腎臓は血液をろ過して、体内の余分な水分や老廃物を取り除くフィルターのような臓器です。血糖の高い状態が続くと、腎臓内の血管が痛み、腎臓の働きが悪くなります。腎臓の働きが低下すると、尿中に蛋白が漏れる(蛋白尿)、足の浮腫みや息切れ(心臓への負担が増える)、末期には尿量の減少をみとめます。日本の透析導入原因疾患の1位が糖尿病性腎症です(2位は腎硬化症)。)2)腎症進行予防のために血糖管理は勿論のことですが、塩分制限や患者さんによってはタンパク質制限をお願いすることもあります。

2.太い血管の障害(大血管障害) 5)

太い血管の障害により、動脈硬化を起こします。動脈はホースのようなもので、軟らかく内部も空洞ですが、動脈硬化が進行すると動脈が硬くなり、内部にプラークなどのゴミが沈着します。動脈硬化は、歳を取れば膝腰が弱るように誰にでも起こり得ますが、高血糖や高血圧、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪高値、喫煙等が動脈硬化の進行を速めてしまいます。動脈硬化が心臓の血管で進行すれば心筋梗塞や狭心症、脳の血管で進行すれば脳梗塞、足の血管で進行すれば閉塞性動脈硬化症(足の痛みや壊疽をきたす)を発症する危険があります。動脈硬化を予防するためには病院に定期的に通院し、血糖値以外にも血圧・脂質を適切に保つことが必要です。もちろん、禁煙も重要です。当院では動脈硬化を専用の機器で評価し、進行の程度を評価することが可能です。

3.その他5)

糖尿病により血糖値が高い状態では白血球の働きが低下すると言われており、感染症を発症しやすくなります。感染症は気管支炎、肺炎、腎盂腎炎、インフルエンザ等多岐にわたります。2020年より全世界で大流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についても同様です。糖尿病患者さんではCOVID-19が重症化しやすいと報告されています。感染症だけではなく、歯周病、認知症、がん等にも関連があるとも言われています。

【治療 <食事・運動・薬>】

糖尿病治療の原則は食事療法、運動療法、それに薬物治療です。ここでは主に1型糖尿病、2型糖尿病患者さんの治療についてご説明します。

1型糖尿病

薬物治療

1型糖尿病患者さんは自分の体でインスリンを作れないので、原則はインスリン治療となります。基本はインスリン製剤(ペン型のインスリン注入器)を用いて、患者さんご自身で1日3~4回注射をして頂きます*
*1日複数回インスリンが必要な理由として、血糖管理のために、健康な人の膵臓から分泌されるインスリンの変動パターンをまねる必要があるからです。

糖尿病ネットワークホームページより引用した画像

(糖尿病ネットワークHP より引用)

図のように、健康な人では食事に合わせて膵臓からインスリンが分泌され、血糖値の上昇を抑えます(これを「追加分泌」といいます)。また食事を食べていないときも、血糖値を一定に保つように、膵臓からインスリンが分泌されています(これを「基礎分泌」といいます)。

1型糖尿病患者さんでは基本的に、1日3回の追加インスリン*(追加分泌に相当するインスリン)+1日1回の基礎インスリン*(基礎分泌に相当するインスリン)を注射していただき、血糖値の安定を図ります。

*インスリンは非常にたくさんの種類があるため、製品により特徴が異なります。その為、基本的には医師がインスリンの種類を決定し、患者さんに注射していただくこととなります。またインスリンポンプを用いた皮下インスリン持続注入療法(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion; CSII)を用いている患者さんについては、現在のところ当院では診療できません。ですが将来的には診療できるようにするつもりです。現在診療体制を整えております。

食事、運動療法

1型糖尿病は生活習慣病ではありませんが、血糖管理のためには食事、運動療法は大切です(具体的な管理については2型糖尿病の食事、運動療法を参照)。インスリンをしっかり投与していても、不摂生な生活を続けていれば健康な人と同様、肥満や高血圧・脂質異常症をきたしてしまいます。

とは言うものの、前述の通り1型糖尿病は生活習慣が問題で発症する病気ではないため、個人的には食事に制限をかけたくないのが本音です。食事をすることは楽しいことであり、その楽しみを制限してしまうようなことは避けたいと考えています。ですが、好きなものを好きなだけ食べすぎてしまえば血糖値が上昇する、肥満につながることは勿論あります。当院では、患者さんの血糖管理の状態やライフスタイルに合わせた食事療法を提案させて頂きます。

2型糖尿病

食事、運動療法

大前提として、2型糖尿病患者さんでは食事、運動療法が基本となります。お薬をしっかり内服していただいても、食事、運動療法をおろそかにすると血糖はよくなりません。

食事療法

糖尿病だからといって、食べていけないものはありません。ただし好きなものを沢山食べたり、間食してしまえば、当然血糖は上昇しますので、摂りすぎないように心がけることは大切です。年齢や身体活動量を考慮して、下記の表に従って一日の総カロリー摂取量(kcal)を算出することができます。ですが、あくまでも目安であり絶対的なものではありません。

また、高血圧や腎臓病をお持ちの方は塩分・蛋白制限などが追加で必要となる場合があります。当院では栄養士による食事支援も行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

  • 目標体重(kg)の目安

    65歳未満:[身長(m)]2×22
    65歳から74歳:[身長(m)]2×22~25
    75歳以上:[身長(m)]2×22~25

  • 身体活動レベルと病態によるエネルギー係数の目安(kcal/kg)

    軽い労作(大部分が座位の静的活動):25~30
    普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む):30~35
    重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある):35~

(糖尿病標準診療マニュアル 2024より引用)

運動療法

目安として、1回30分程度、週3日以上の歩行(散歩)、目安として1日8000歩程度に加えて、筋肉トレーニング(スクワットなど)を行うことが有効とされています。また1日の中で座っている時間を減らすことも大切です。

とはいうものの、なかなか運動の時間が取れない方も多くいらっしゃると思います。そのような方に意識してもらいたいのが、非運動性熱産生(Non Exercise Activity Thermogenesis; 通称NEAT)を高めることです。NEATとは簡単に言うと、いわゆる運動(散歩、水泳、自転車等全て)以外の身体活動で消費されるエネルギーのことを指し、例えば通勤・通学、買い物、ゴミ出し・・等々、すべてNEATに該当します。NEATを高めるには、日常生活の中で座って過ごす時間を減らし、立っている時間や歩いている時間を増やすことです。具体的には通勤・通学等で積極的に階段を使う・休憩時間に少し遠くのトイレまで歩く、デスクワークが多い方は立ち歩く用事を作る等が挙げられます。海外では立ちながら仕事ができるデスクの使用を推奨する企業もあります。

薬物治療

食事、運動療法を行っても血糖値の改善が乏しい場合、2型糖尿病では飲み薬、注射製剤(インスリン、GLP1受容体作動薬)を用いて治療を行います。近年次々と新しい糖尿病治療薬が開発され、治療薬も様々な選択肢があります。治療薬のすべてをここで記載することは難しいため割愛させて頂きますが、患者さん毎に適切な治療薬を選択することがとても重要です。

【治療目標】

糖尿病治療の目標は、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL(Quality Of Life;生活の質)を達成すること」です。その為には単に血糖を良くするだけでなく、血圧、脂質異常症の良好なコントロール、適正体重の維持、禁煙等が必要です。また高齢化に伴う合併症(認知症、サルコペニア、悪性腫瘍等)や社会的不利益を被らないようにすることも大切です。

糖尿病治療の目標

(日本糖尿病学会 糖尿病治療ガイド 2022-2023. 文光堂より引用)

HbA1cについて

  • コントロール目標値注4
  • 目標
  • 血糖正常化を目指す際の目標注1
  • 合併症予防のための目標注2
  • 治療強化が困難な際の目標注3
  • HbA1c(%)
  • 6.0未満
  • 7.0未満
  • 8.0未満

治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する。

注1
適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
注2
合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
注3
低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
注4
いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。

(日本糖尿病学会 糖尿病治療ガイド 2022-2023. 文光堂より引用)

HbA1cの目標値は、全ての患者さんが同じである必要はありません。患者さん毎に個別に目標値を設定します。一般的によく言われる管理目標が「HbA1c 7%未満」ですが、これは糖尿病合併症を予防するための目標と言われています。

  • 患者の特徴・健康状態注1
  • カテゴリ-1
    1. 認知機能正常かつ
    2. ADL自立
  • カテゴリ-2
    1. 軽度認知障害~軽度認知症または
    2. 手段的ADL低下、基本的ADL自立
  • カテゴリ-3
    1. 中等度以上の認知症または
    2. 基本的ADL低下または
    3. 多くの併存疾患や機能障害
  • 重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤,SU薬,グリニド薬など)の使用
  • なし注2
  • あり注3
  • 7.0%未満
  • 65歳以上
    75歳未満
    7.5%未満(下限6.5%)
  • 75歳以上
    8.0%未満(下限7.0%)
  • 7.0%未満
  • 8.0%未満
  • 8.0%未満(下限7.0%)
  • 8.5%未満(下限7.5%)

(日本老年医学会, 日本糖尿病学会. 高齢者糖尿病診療ガイドライン 2023より引用)

特に御高齢の患者さんでは、認知機能やADLを考慮して上記のように血糖管理を設定することがあります。

フットケア

糖尿病神経障害がある方で血糖管理が悪いと、足のちょっとした傷(靴擦れなど)から感染を起こしてしまいます。さらに動脈硬化もあると足先への血流が滞り、次第に潰瘍や壊疽へと進行してしまうことがあり、最終的に切断にいたることがあります。糖尿病患者さんでは日常的に足を見ることがとても大切です。

下記の表について思い当たる節がないか、ぜひ確認してみてください。

糖尿病から足を守るために大切なこと

  • 足を毎日見る
    • 怪我、火傷はないか?
    • 爪は長い?巻き爪は?
    • 水虫はないか?
    • タコやウオノメはないか?
    • 肌の色は変ではないか? 等
  • 爪は短く整える
  • 足を清潔に保つ
  • 自分の足に合った靴を履く
  • 足を火傷しないように気を付ける
  • 痛みやしびれの有無
糖尿病から足を守るために大切なこと

シックデイ

シックデイとは、糖尿病患者さんが何らかの原因(感染症、外傷等)で体調不良を起こし、発熱、嘔吐、下痢、食欲低下などの症状が出現して血糖値が乱れやすくなった状態の事を言います。シックデイでは体調不良で薬が飲めない・インスリンなどが注射できず血糖値が高くなることも、反対に食事が摂れないため血糖値が低くなることもあります。

シックデイ時にご家庭でできる対応の基本が「シックデイルール」となります。

  1. 安静にする
  2. 水分を十分に摂る(スープなどでも可能)、うどんやお粥など炭水化物を摂る。
  3. インスリンは決して自己中断しない。飲み薬は中止が必要なもの(sglt2 阻害薬、メトホルミン等)があります。
  4. (可能な患者さんは)血糖測定をこまめに行う。

以上がシックデイルールです。具体的には主治医と相談の上で決定します。

上記を守っていても体調が改善しない、血糖が高い/低いまま変わらない、食事が摂れない、どうしたらいいのか不安で分からない等あれば、決して無理をせずに病院に連絡してください。

【本文中の引用文献、ホームページ】

1) 糖尿病情報センターホームページ
2) 厚生労働省 健康日本21 最終評価報告書 2022
3) 日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020 , 南江堂, 2020
4) Gregg et al. New Engl J Med, 2014
5) 日本糖尿病学会ホームページ