糖尿病・甲状腺疾患・内科一般
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このページでは甲状腺疾患について、以下の目次に沿って説明しています。
甲状腺は首、男性でいう喉仏あたりにある蝶のような形をしています。大きさは10-15グラムととても小さい臓器です(ちなみに心臓は200-300グラム、人体最大の臓器と言われる肝臓は1-1.5キロあります)。
甲状腺からは「甲状腺ホルモン」が作られます。甲状腺ホルモンは体の代謝をアップさせる働きがあり、身体の様々な臓器に作用します。
甲状腺ホルモンは下垂体から産生される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により分泌の程度を管理されており、下垂体からのTSHを甲状腺が受け取る(甲状腺がTSHを受け取る場所をTSH受容体と言います)ことで、甲状腺ホルモン(サイロキシン(T4)、トリヨードサイロニン(T3))が分泌されます。
*実際に血液検査で測定されるのは、遊離型T3(FT3)、遊離型T4(FT4)です。
甲状腺ホルモンの働きは以下のようになります。
甲状腺ホルモン高値 | 甲状腺ホルモン低値 | |
---|---|---|
心臓 | 動悸、脈が速くなる(頻脈) 不整脈(心房細動など) | 脈が遅くなる(徐脈) |
発汗 | 増える、手足が震える | 減る |
エネルギー消費 | 増えるので異常に食欲が増えたり、食べても体重が減ってしまうことがあります。 | 下がるので体重が増えたり、浮腫が出現することがあります。 |
精神面 | 元気で活動的となることがあります。 | 気持ちが沈み、うつっぽくなることがあります。 |
消化管 | 下痢 | 便秘 |
睡眠 | どちらも不眠となりやすい傾向があります。 |
バセドウ病とは
甲状腺からT3、T4が過剰に作られ、甲状腺ホルモンが高値となる病気です。なぜ甲状腺ホルモンが高くなってしまうかというと、TSH受容体(甲状腺がTSHを受け取る場所)に対して自己抗体(TSHレセプター抗体;採血検査ではTRAb、TSAbで確認することが多いです)というものが出現してしまうからです。自己抗体は、下垂体からの指示を無視して好き勝手に甲状腺ホルモンを産生する指示を出してしまいます。なぜ自己抗体が出現するかははっきりと分かっていませんが、バセドウ病は自己免疫疾患の一つと考えられています。
バセドウ病は2-3/1000人の頻度で発症します。男女比は1:3-5で女性に多く、20-50代の方に発症しやすいとされています。
バセドウ病の症状
メルセブルグの三徴 (眼球突出、甲状腺腫、頻脈)、息切れ、発汗過多、イライラ、筋力低下、脱力、手指振戦、月経不順、体重減少等・・があります。ですが、実際には目が腫れた眼科
月経不順・不妊→産婦人科
精神的に落ち着かない→心療内科 など
上記のように、甲状腺の病気と気付かず、他の診療科を受診される患者さんもいらっしゃいます。またご高齢の患者さんでは症状に気づきにくいこともあり、採血で肝機能障害を指摘された、心電図で心房細動を指摘されたことをきっかけにバセドウ病と診断されることもあります。
バセドウ病の診断
バセドウ病での甲状腺のホルモンの動きをまとめると以下のようになります。
バセドウ病の診断は、主に症状+採血検査で行われます。
甲状腺ホルモン高値の症状
+
甲状腺ホルモン高値
=TSH 低値(0.1μU/mL以下)+FT3とFT4の両方もしくはどちらかが高値
+
自己抗体(TRAb、TSAb)が陽性*
上記がそろえば、臨床上バセドウ病と診断されます。**
*まれに自己抗体が陰性のバセドウ病患者さんがいます。その際はシンチグラフィにて評価をします。
**ガイドライン上は放射性ヨード(もしくはテクネシウム)甲状腺摂取率(シンチグラフィ)の評価を行うことも診断基準に含まれていますが、診断に悩ましい症例などを除いて行われないことが多いです。
【参考】バセドウ病ガイドライン
1)バセドウ病
a)の1つ以上に加えて、b)の4つを有するもの
2)確からしいバセドウ病
a)の1つ以上に加えて、b)の1、2、3を有するもの
3)バセドウ病の疑い
a)の1つ以上に加えて、b)の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3ヶ月以上続くもの
バセドウ病の治療
バセドウ病の治療は薬物治療、アイソトープ治療、手術療法の3つがあります。
薬物治療
(1)抗甲状腺薬
チアマゾール(メルカゾール®)とプロピルチオウラシル(プロパジール®)の2種類があります。有効性の点から、チアマゾールが第一選択となることが多いです。ですが、チアマゾールには催奇形性の報告がある為1)、妊娠希望がある女性、妊娠中ではプロピルチオウラシルを選択します。
抗甲状腺薬の注意すべき点として、副作用があります。
があります。これらの副作用は、抗甲状腺薬内服開始後3か月以内に発症しやすいため注意が必要です。そのため、当院では抗甲状腺薬を開始された患者さんにおいては、最初の2-3ヶ月は2週間ごとに受診して副作用の有無を確認させていただいております。
その他まれな副作用として、血管炎、劇症肝炎などがあります。
抗甲状腺薬は診断された当日から治療が開始できるため便利ですが、治療期間が長くなることが特徴です。抗甲状腺薬を長い期間飲んでいても改善しない、また一旦お薬を中止もしくは減量した後にバセドウ病が悪化する患者さんがいます。
外来で患者さんから「どれくらいの確率で治りますか?」と聞かれることがあります。抗甲状腺薬を中止後、70-80%で寛解(お薬を飲まなくても甲状腺機能が安定している状態)2)、30%で再発するという報告がありますが3)、他にも色々な研究報告がされています。
(2)無機ヨウ素
ヨウ素は甲状腺で甲状腺ホルモンが作られるのに必要な材料です。ですが、大量の無機ヨウ素(ヨウ化カリウム®)を内服すると、甲状腺ホルモンの産生が一時的に抑えられてしまいます。その後、お薬を中止すると2-3週間で甲状腺ホルモンは正常化します(Wolf-Chaikoff効果)。
甲状腺機能が非常に高い患者さんでは、抗甲状腺薬と一緒に無機ヨウ素を飲むことがあります。また前述した副作用により抗甲状腺薬を飲めない場合は、無機ヨウ素のみで治療することもあります。ですが無機ヨウ素を長期間使っていると、効果が低下してしまうことがあります(Escape減少と言います)。
アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)
ヨウ素は体の中で、甲状腺だけに取り込まれて甲状腺ホルモンを作るのに利用されます。その特徴を利用した治療がアイソトープ治療です。
放射性同位元素(アイソトープといいます)のヨウ素131(I131)を飲んでいただき(下の写真のようなカプセルです)、カプセルから放出される放射線により甲状腺を破壊します。
富士フィルム富山化学 株式会社 ホームページより
アイソトープ治療が望ましい患者さんとしては、抗甲状腺薬でコントロール不良、副作用で抗甲状腺薬が使用できない方が挙げられます。治療はカプセルを飲むだけですので、外来、入院どちらでも行うことができます(施設、投与量によって異なります)。またアイソトープ治療によって甲状腺が小さくなる効果も期待することができます。
一方でアイソトープ治療は甲状腺がんをお持ちの方、妊娠中、授乳中の方は受けることができません。妊娠希望のある方は、アイソトープ治療後は一定期間否認していただくことが必要です。18歳以下は慎重投与となり、殆どの施設では実施されません。また治療後に甲状腺機能低下症に至る可能性、甲状腺眼症が悪化する可能性があります。
【参考】放射線と甲状腺について
放射性とか放射線と聞くと、怖いイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
ですがアイソトープ治療は甲状腺のみに放射線があたるため、他の臓器への放射線障害(皮膚障害や肺炎など)を心配する必要はありません。アイソトープ治療とがんの関連性についてもいくつかの研究がありますが、いずれの研究でもアイソトープ治療はがんの発症と関連がないと報告されています。4-5)
手術療法
最も確実に治療の効果が得られるのが、手術療法です。甲状腺を全て摘出してしまうので、バセドウ病は確実に治ります。抗甲状腺薬やアイソトープ治療が普及する前(1940-1950年以前)は、バセドウ病の治療はほぼ全例が手術療法でした。
手術を受けるためには、手術前に甲状腺機能を改善させておく必要があります。甲状腺ホルモンが高い状態で手術を行うと、甲状腺クリーゼ*といって非常に重篤な合併症を引き起こすことがあるからです。
*甲状腺クリーゼ;未治療/コントロール不良のバセドウ病があり、感染症・外傷などのストレスが生じることで発症することが多いとされているます。いったん発症すると意識障害、循環不全、肺水腫、心不全、肝機能障害などをおこし、生命の危機に直面します。致死率は約 10%といわれています。
また手術における最も大切な注意点として、合併症があります。
読んで字のごとく、痛みもなく甲状腺が炎症を起こしてしまう病気です。甲状腺ホルモンが急に高くなり、その後低下した後に元に戻るという経過をたどります。
一連のホルモンの変動は2-3か月で起こることが多く、ホルモンの変動の経過を経過観察する必要があります。基本的に治療の必要はありません。無痛性甲状腺炎は橋本病の方、ご出産後の方にみられることが多いとされています。
【参考】無痛性甲状腺炎の診断ガイドライン
1)無痛性甲状腺炎
a)およびb)の全てを有するもの
2)無痛性甲状腺炎の疑い
a)の全てとb)の1~3を有するもの
除外規定
甲状腺ホルモンの過剰摂取例を除く。
かぜ等のウイルス感染をきっかけに甲状腺が壊され、甲状腺ホルモンが漏れ出てしまうことで、甲状腺ホルモン高値となる病気です。亜急性甲状腺炎では甲状腺ホルモン高値の症状(動悸、息切れ、手の震え等)だけではなく、発熱、首の痛み(クリーピング現象といって、痛みが反対側に移動すること)などが特徴です。
診断には症状、採血検査、超音波検査で行います。採血検査ではバセドウ病と同じように甲状腺機能が高値(FT3、FT4高値、TSH低値)となることが多いですが、自己抗体(TRAb・TSAb)は陰性、CRPや白血球が高値となる点がバセドウ病と異なる点です。治療にはステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を用いておこない、抗甲状腺薬の使用は禁忌となります。通常は治療開始後1-2ヶ月程度で甲状腺ホルモンは改善しますが、一部の症例ではステロイドの減量で再度悪化してしまったり、治療後に甲状腺機能低下症が持続することがあります。
【参考】亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン
1)亜急性甲状腺炎
a)およびb)の全てを有するもの
2)亜急性甲状腺炎の疑い
a)とb)の1および2
除外規定
橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌
名前の通り、甲状腺ホルモンが不足して、機能低下をきたした病態のことです。甲状腺機能をきたす原因として、橋本病(慢性甲状腺炎)、薬剤(アミオダロン、インターフェロン、抗がん剤)、甲状腺手術・アイソトープ治療後、ヨウ素の過剰摂取、先天性(クレチン症)、中枢性甲状腺機能低下症(下垂体前葉機能低下症)などがあります。
橋本病とは
橋本病とは慢性甲状腺炎という病理所見からみつかった病気です。甲状腺が長い時間炎症を起こすことで、甲状腺が(徐々に)低下します。ですので、橋本病だからといって、必ず甲状腺機能低下症であるわけではありません。橋本病は男女比 約1:20-30で女性に多く、20-40代の方に発症しやすいとされています。橋本病の原因として、自己抗体である抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)、抗サイログロブリン抗体(TgAb)が陽性となることがあげられます。
橋本病の症状
脱毛、易疲労感、抑うつ気分、認知機能低下、嗄声、寒がり、浮腫、便秘などがあります。ですが実際には橋本病もバセドウ病と同じ様に、
甲状腺の病気と気付かずに、他科を受診してしまうことがあります。
橋本病の診断
橋本病での甲状腺のホルモンの動きをまとめると以下のようになります。
橋本病の診断は、主に臨床所見と採血検査で行われます。
甲状腺の腫れ
+
自己抗体(抗ペルオキシダーゼ抗体、抗サイログロブリン抗体)が陽性*
上記がそろえば、橋本病と診断されます。甲状腺機能の低下の有無は必須ではありません。
【参考】慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン
1)慢性甲状腺炎(橋本病)
a)およびb)の1つ以上を有するもの
橋本病の治療
甲状腺機能低下症の有無や、妊娠を予定されているか等を踏まえて決定します。また甲状腺機能低下症を認める場合は、他の原因(ヨウ素を沢山摂り過ぎていないか、原因となる薬剤はないか等)の有無も事前に確認します。
(1)甲状腺機能低下症がある場合;合成T4製剤であるレボチロキシン(チラージンS®)を内服します(ホルモン補充療法)。
(2)甲状腺機能正常である場合;半年~1年に1回は甲状腺ホルモンをチェックします。妊娠を予定している、もしくは妊娠された場合はホルモン補充療法を検討します。
【参考】甲状腺機能低下症と妊娠
母体の甲状腺機能低下症は、流早産、妊娠高血圧症候群のリスクとなり、また胎児には中枢神経系の発達に影響することが報告されています。6) そのため、妊娠が分かった際には速やかに補充療法を開始します。また妊娠前から既に補充療法を受けている方も、妊娠により30-50%の補充量増量が必要となることがあります。
甲状腺結節は甲状腺内に認められるしこり、腫瘤の総称です。甲状腺結節は良性結節もしくは悪性腫瘍に分けられます。大半が良性結節ですが、一部に悪性腫瘍が認められます。また非常にまれですがホルモンを自律的に作る腫瘍(ホルモン産生腫瘍)も存在します。
甲状腺結節の多くは無症状であることが多いです。しかし結節が大きい、悪性腫瘍の一部では喉の腫れ、物が飲み込みにくい、声のかすれ等の症状が出現することがあります。
甲状腺腫瘍の診断は診察、採血、超音波検査にて行います。当院では診察で首の腫れの有無を確認した後、採血、超音波検査を行います。特に超音波検査は、甲状腺結節の評価を行うのに非常に重要かつ便利な検査ですので、当院では甲状腺結節を疑われた患者さんでは積極的に超音波検査を受けることをお勧めしております。
検査の結果、大きい結節(目安として20mm以上)、悪性腫瘍の可能性が否定できない場合は、細胞診検査(首に針を刺して腫瘍細胞を採取する検査です)を行います。細胞診検査は当院では実施していないため、近隣の病院に検査を依頼します。
1) 荒田 尚子ら. 内分泌・糖尿病・代謝内科 36(2), 141-146, 2013
2) Wang J et al. Br J Radiol 89 (1064): 20160418, 2016
3) Konishi T et al. Endocr J 58: 95-100, 2011
4) Cari M et al. JAMA. 280: 347-355, 1998
5) Biondi B. JAMA Netw Open. 4:e2126361, 2021
6) 吉原 愛. 内分泌甲状腺外会誌 35 (4): 268-271, 2018